曽和利光氏 連載【「人を表現する言葉」を考える】

「人を表現する言葉」を考える(その7)『コミュニケーション能力』

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≪連載第7回≫元リクルート人事部GM、株式会社人材研究所 代表の曽和利光氏に【「人を表現する言葉」を考える】をテーマにお話いただく連載です。

「人を表現する言葉」を考える(その7) 『コミュニケーション能力』

経団連の調査などでも何年にも渡って「コミュニケーション能力」を企業が採用において最重要視しているとのことです。ところが「コミュニケーション能力」という言葉ほど空虚な言葉はない、というぐらい、この言葉は各企業、各発言者においてバラバラな意味で使用されています。元々は言語学の用語のようで、ただ文法的に正しい言葉遣いができるだけでなく、ある特定の文脈においてメッセージの伝達や解釈などができるという能力を指していました。しかし、現在の日本の企業社会においては、さらにたくさんの意味を付与されています。以下にその例を挙げます。

・相手の気持ちや感情を推察する力(感情把握)

・相手の伝えたいメッセージを推察する力(趣旨理解)

・相手に心地よい表現方法で物事を伝える力(配慮表現)

・相手の感情を高ぶらせるような表現をする力(人心高揚)

・論理的に筋道を立てて、伝えたいことを述べる力(論理表現)

・様々な話題を提供し、場を盛り上げる力(話題提供)

・一つの雰囲気(空気)を作り上げる力(空気醸成)

・複数の人々の間において合意を形成する力(合意形成)

・ある案件について相手と交渉して、説得する力(交渉説得)

・個人や集団との間で信頼関係を作る力(信頼構築)

などです。もちろん他にもたくさんあります。これらに共通することは、すべて「いかに伝えるか」「いかに感じ取るか」ということであり、中身についてはあまり述べられていないということです。

しかし最近とみに思うのは、「いかに伝えるか」の時代から、そもそも「伝える内容がどれだけ素晴らしいか」の時代に、徐々に移ってきているのではないかということです。もちろん、口達者な人間が中身のないことをそれっぽく言って人々を弄することはしばらく無くならないでしょう(絶対無くならないでしょう笑)。ですが、「一昔前なら通用しなかったコミュニケーションレベル」(いわゆる上記のような意味での)の人がスター社員になっている時代です。例えば、エンジニア中心の会社などはわかりやすい例です。言葉は達者ではなく、ぼそぼそとしか話さない人でも、中身が素晴らしければ人は一生懸命聞きますし、理解しようとします。ビル・ゲイツも以前「ギーク(オタク)には優しくしろ。将来、彼らの下で働く可能性は高い」と言ったようですが、一つのことをとことん突き詰めて、深いコンテンツを作れる人の方が重用されるということのようにも思えます。

outdoor-office-workspace-setup-with-high-ceiling-picjumbo-comまた以前、所属した会社で自社専属クリエイターの採用をしたことがあります。最初にいろいろな作品を送りつけてもらいました。中には食べ物をオブジェにつけて送ってきた人もいて、腐って異臭を放ち、難儀したことを覚えています。それはさておき、彼らと面接してみてわかったのが、普通に話すと全然しゃべれない人が、作品を間に置いて話すと饒舌にいろいろと話してくれるということでした。「能力は領域固有」と言いますが、まさにそうで、彼らのいわゆる「コミュニケーション能力」は特定の「モノ」を挟むことで発揮されるものだったということです。

以上のようなことを考えると「コミュニケーション能力」とは、意味もバラバラであることや、そしてそもそも面接などの「特異な場」(初めて会った得体の知れぬ面接担当者に自分の人生やパーソナリティを語るという異常な場)で発揮されるかどうかがそんなに大事なことなのか(その場で発揮できたからと言って他の場面で発揮できるとは限らないし、逆に面接で発揮できないからと言って、他の場でも発揮できないとも言えない)ということを考えると、そこまで多くの企業が素朴に重視するというのはやや危険性が高く、落とし穴があるような気がしてなりません。

面接担当者は、面接の場での話しぶりなどで「コミュニケーション能力」を測りがちですが、評価は慎重にすべきではないかと思います。緊張=コミュニケーション能力が低い、のように判断することなどが典型例です。そうではなくて、彼/彼女が自在にコミュニケーション力を発揮できるようなもっとリラックスできる場を用意し、そこでいろいろな話を通じて評価をすべきではないかと思います(ここに、通常の採用面接だけではなく、インターンシップなどのできるだけ「素」を見ることができるような場を用意する採用的な意味があると思います)。

さて、本稿では、「コミュニケーション能力」という曖昧さと、評価のしづらさについて少し書いてみました。自社でこの言葉をあまり明確化することなくお使いになっているところがありましたら、ぜひ一度「そもそもそれはなんなのか」「それは本当に面接という場で評価できるものなのか」をご検討いただければと思います。

 

株式会社人材研究所
代表取締役社長  
曽和利光氏

採用後ろ倒し対策のコンサルティング、面接官・リクルータートレーニング、イベント選考アウトソーシングなどの採用をすべて一気通貫で行う。元リクルート人事部ゼネラルマネージャー。リクルート、ライフネット生命、オープンハウスで人事畑を進み、現在は株式会社人材研究所を設立。採用領域を中心に、人事評価制度の構築・改定等、企業の様々な人事課題解決に取り組む。就活「後ろ倒し」の衝撃(東洋経済新聞社)、知名度ゼロでも「この会社で働きたい」と思われる社長の採用ルール48(東洋経済新聞社、共著)、「できる人事」と「ダメ人事」の習慣(明日香出版社)、DVD 120分でわかる!! 就職面接の新常識(ヒューマンアカデミー)、その他連載多数。

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